FIELD NOTES: 書を持って街へ出よう

合同会社フィールドワークス プログラマ兼代表のブログ

テレビ台型 開管共鳴管式 マトリックススピーカーの製作

自宅の居間のテレビの音質を向上させるため,テレビ台型スピーカーを自作しました。

設計

最初に候補に考えていたのはTVラック一体型のマトリックススピーカー1「王座F2」でしたが, ブラウン管TV時代の設計のため,そのままでは最近の横長TVにはマッチしません。

そこで王座Fのコンセプトだけを頂いて,オリジナルなスピーカーとして再設計することにしました。

横幅の変更

最初は単純に「王座F」の横幅700mmを900mmに拡張することを検討しました。
しかし,横に長くしただけでは,

  • 第1キャビネットの容量が増えすぎる。
  • ラック部分の横幅が不自然に広くなる。

といった問題がすぐに見えてきました。

そこで,第2キャビネットを両サイドに配置するのはやめて, 横に長くなった天板下の空間にすべてを収めることにしました。 サイドの第2キャビネットをなくしたことで空間が広がるので, 縦2列のラックとして利用できそうです。

キャビネット構造の変更

「王座F」はダブルバスレフ方式ですが,これを平べったい空間に実装するのは無理がありそうです。 テレビ台の奥行きは,400mm〜450mm程度になると思いますが, 第1キャビネットと第2キャビネットの容積比を1:3ぐらいと仮定すると, 第1キャビネットが100mm程度の角柱状になってしまうからです。

  • 第1キャビネットが共鳴管として働いて変な癖が出てしまうのではないか?
  • それならいっそのこと,共鳴管型スピーカーにしてしまってはどうか?

という流れで,共鳴管型スピーカーとしてキャビネット構造を見直すことにしました。

開管共鳴管型

スピーカーのエンクロージャーの形式には,密閉型,バスレフ型,ダブルバスレフ型,バックロードホーンなど色々ありますが,共鳴管の原理を利用して低音を増強する共鳴管型というものもあります。

共鳴管には開管と閉管がありますが, マトリックススピーカーの3つのユニットを無理なく配置するには開管にするしかなさそうです。 開管共鳴管の成功事例をあまり見かけたことがないので不安でしたが,開管共鳴管型に挑戦してみることにしました。

最終的な設計

設計図は下記のとおりとなりました。

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設計図

共鳴管型スピーカーの設計にあたっては,AudiFill公式ブログの記事を参考にさせていただきました。

  • 一本の開管共鳴管の中央付近にマトリックススピーカーの3つのユニットをマウントする開管共鳴管型とした。
  • 管の長さLは2.5m程度になるので,設計上の共振周波数f0は,340/(2×L)≒68Hz。
  • 開口からの中高域の漏れ対策よりよも共鳴管として効率的に動作させることを優先させた。
    →計4回折れ曲がる構造で,そもそも共鳴管としての動作するかどうかが心配されたため。
    • 共鳴管の断面は正方形に近い形状にした。
    • 共鳴管の断面積を一定とした。
      →設計図で開口側だけ微妙に広くなっているのは単なる計算ミス。本来ならば,126mmできっちり3等分できたはず。
  • 共鳴管の断面積は12㎝×12.4㎝≒149㎡とした。
    • ユニット3本分の振動板面積に対して1.8倍
    • 同時に働くのが実質2本相当({L-R}+{R+L}+{R-L}=R+Lだから?)とみなせば2.7倍
  • ユニットは,手持ちの関係でFF85WKを想定。

製作

製作には,18mm厚の三六判パイン集成材を2枚使用しました。 塗装は,水性ウレタンニスで仕上げました。

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外観

マトリックス結線

通常のマトリックス結線はバランス出力やBTL出力のアンプに利用できないのですが,今回は湘南電波研究所(SRL)で紹介されているBTL出力アンプで使えるマトリックス結線を利用させていただきました。

測定

下表に軸上1mでの周波数特性とインピーダンス特性を示します。

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周波数特性+インピーダンス特性

周波数特性はピークとディップが多いですが,低域までよく伸びています。

インピーダンス特性を見ると,70Hz, 130Hz, 202Hz, 258Hz, 337Hzあたりに谷が見られます。 基音と2,3,4,5倍音の周波数での共振が観察され,開管共鳴管として動作しているようです。

共鳴管の中央にユニットを配置したことで偶数倍の共振が潰されることを心配していましたが,大丈夫だったようです。

試聴

居間にセッティングして,テレビのヘッドフォン端子→デジタルアンプ(FX-501J×2)→本スピーカーという接続で試聴しました。

吸音材なしの状態では癖が強く,長時間テレビを鑑賞するのは厳しい音でした。 やはり対策なしでは開口部からの中広域の漏れが強いようです。

そこでユニットの裏側と開口部奥に吸音材(水槽用ろ過マット)を詰め込んだところ,落ち着いて聴いていられる音になりました。

ノーマルのままでは低音域は伸びているのですが,AV用としては少し物足りない感じでした。 テレビの設定で低音を少しブーストしたら良い感じのバランスになりました。


  1. 特殊な結線により1台でサラウンド感を出すことのできるスピーカーです。一つのエンクロージャーに3つのスピーカーユニットを配置して,中央のユニットにはR+Lを,左側にはL-R,右側にはR-Lの音声出力を担当させます。

  2. 長岡鉄男氏設計のスピーカーエンクロージャーです。長岡鉄男最新スピーカークラフト〈3〉に製作記事が掲載されています。TVラック一体型であること,マトリックススピーカーであることが特徴です。